この記事では、リップ音の基本から声優・ナレーターへの影響、原因と対処法、録音現場での予防策、演技での活用法まで解説します。リップ音でお困りの方に、すぐに実践できる解決策をお伝えします。

リップ音とは？声優が知っておくべき基本知識

リップ音の定義と特徴

リップ音（lip noise）とは、口内や唇から発せられる”ピチャ”や”プチ”という破裂音や摩擦音のことです。発声時や口の開閉で自然に生じるノイズですが、録音ではマイクがこの音を拾いやすく、音声品質の低下や聴き手の不快感の原因となります。

声優やナレーターにとって注意すべきノイズの一つで、CDドラマやアニメ、吹き替えの収録では編集時にも問題になります。収録中に「リップノイズが入っています」と指摘されるケースも珍しくありません。

ポップノイズとの違いを詳しく解説

リップ音とよく混同されるものに「ポップノイズ」（吹かれ音）がありますが、発生原因が異なります。リップ音は口の中や唇の接触・摩擦で生じる物理的ノイズですが、ポップノイズは「パ・バ」などの破裂音や激しい息がマイクを直接振動させ、低音域の「ボフッ」という音として録音されます。

そのため、リップ音対策とポップノイズ対策は別々に考える必要があります。リップ音には発声習慣や口腔ケア、ポップノイズにはマイクワークやポップガードの使用が効果的です。

声優業界でリップ音が問題視される理由

プロの声優がリップ音に気を配る最大の理由は、音声作品の品質や説得力に直接影響するためです。録音した音声にリップノイズが多く含まれると、台詞が聞き取りにくくなり、キャラクターイメージの損失やリスナーの没入感低下を招くリスクがあります。

また、近年はハイレゾ音声や高性能オーディオ機器、高感度コンデンサーマイクの普及で、マイクが拾うノイズの種類や量が増え、より繊細な配慮が必要になっています。

現場でも、リテイクや編集作業の負担を避けるため、リップ音対策は声優自身が身につけるべきスキルです。

リップ音が発生する3つの主要原因

唾液の量と粘度による影響

リップ音の発生には唾液の量と粘度が大きく関係しています。唾液は口の中の潤滑剤として働きますが、量が多すぎたり粘度が高くなると、舌や唇の動きで唾液の糸が引いたり空気の泡が弾け、リップ音が発生しやすくなります。

特に緊張状態や収録前の食事・飲み物によって唾液の性質は変化します。乳製品や糖分の多い食品、カフェインを含む飲み物は唾液を濃くしやすいため、声優やナレーターの現場では注意が必要です。

口腔内の乾燥と緊張状態

口の中の乾燥はリップ音の発生リスクを高める要因です。収録現場で緊張すると唾液の分泌が減少し、口の中がカサつくことで、発声時に舌や唇が上顎や歯茎に張り付きやすくなります。その結果、剥がれる瞬間に「パチッ」「ペチッ」といったリップ音が生じやすくなります。

また、エアコンや乾燥した環境での収録は、口の中の水分が蒸発しやすく、リップノイズ発生の原因となります。緊張により口呼吸が増えることも口の乾燥を悪化させるため、声優やナレーターは特に注意が必要です。

舌や唇の動き方による発生メカニズム

リップ音は舌や唇の動きによっても発生します。特に母音や破裂音（「ぱ行」「た行」など）を発声する際、舌先や唇の動きが速すぎたり余分な力が入ると、唾液との摩擦でリップ音が強調されます。

舌先を急激に上顎から離したり、唇を閉じた状態から急に開いたりする動作はリップノイズの典型例です。また、慣れていない原稿や難しい言葉を読むとき、筋肉が硬直して滑舌が悪くなり、リップ音が増える傾向があります。

以上の3つの要因が単独、または複合的に作用することでリップ音は生じやすくなります。

声優現場でのリップ音の実情と影響

アフレコ・ナレーション収録での具体的な問題

声優のアフレコやナレーション収録の現場では、繊細なマイクが口元の音を拾うため、リップ音（リップノイズ）が特に問題です。

リップ音とは、唇や舌、口の中に溜まった唾液が動く際に発生する「ピチャッ」「クチャッ」といった雑音を指し、収録された音声に混じることで作品全体の品質を損なう恐れがあります。また、ナレーションや朗読の現場でも、リップノイズが入り込むとリスナーに不快感を与えます。

特に、緊張状態や長時間収録による口の乾燥、セリフの合間に生じる小さな破裂音などが、リップ音の主な発生要因です。収録環境や役柄、発声方法によっても発生頻度が変わり、後処理でのノイズ除去にも限界があるため、現場での対策が不可欠です。

音響監督からの指摘事例とNGパターン

実際の収録現場では、音響監督からリップ音に関する指摘を受けることが少なくありません。リップ音がはっきりとマイクに入ってしまった場合、「テイクNG」や「もう一度お願いします」といった指示が出ることもよくあります。

リップノイズが問題となる主なNGパターンは以下の通りです。

特にナレーションやCM収録の場合、完成音源の品質要求が高いため、わずかなリップ音でもリテイクになることが多くなっています。こうしたNGの積み重なりは、時間的なロスにもつながります。

リテイクによる時間ロスと現場への影響

リップ音による収録現場での最も大きな問題の一つが、リテイクの発生によるスケジュール遅延や現場全体への影響です。

音響監督やエンジニアがリップ音を認識し、編集で除去できない場合は、そのテイク全体を録り直す必要が生じます。これにより、以下のような支障が出ることがあります。

さらに、作品の完成スケジュールに影響が出るため、納期が厳しいテレビアニメやCMの現場では、リップ音対策がプロの基本技術として重視されるようになりました。また、音響会社やプロダクションによっては、リップ音の少ない声優が好まれる傾向もあります。

リップ音の基本的な対処法と予防策

水分補給と口腔内環境の整え方

リップ音の発生を防ぐには、十分な水分補給が最も基本的で効果的な対策となります。声優の現場では、空調や長時間の収録で口の中が乾燥しがちなため、こまめな水分摂取が欠かせません。喉や口の渇きはリップ音の大きな原因です。

常温の水やぬるま湯を選び、コーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物は避けた方が良いでしょう。カフェインは利尿作用があり、口の中の乾燥を促進してしまうからです。また、収録前や収録中は適度にうがいをして、口内を清潔に保つことも大切です。

収録前の準備とマウスケア方法

収録現場に入る前には、口の中の環境を整える準備が重要です。歯磨き、マウスウォッシュ、舌の清掃を必ず行い、口中に残る粘つきや汚れを除去しましょう。また、最近人気の口腔保湿ジェルやスプレーを使用することで口内が滑らかになり、リップ音を防ぐ効果があります。

長時間の収録を見越して、のど飴やキシリトールガムなど、唾液分泌を促すアイテムを活用するのも効果的でしょう。ただし、糖分が多いものは避け、口内がベタつかないタイプを選んでください。

避けるべき食べ物・飲み物と効果的な対策

リップ音対策として避けた方が良い食べ物や飲み物について、以下の表にまとめました。

収録の前だけでなく、普段から食生活や嗜好品選びにも気を配ることが、リップ音の予防につながります。また、収録直前に上記の食材を摂取した場合は、必ずうがいと歯磨きを行いましょう。

マイクワークと収録技術でのリップ音対策

正しい発声法とブレス位置の調整

リップ音は、口の中の唾液や舌・唇の動きによって発生しやすく、特に収録現場では発声方法が適切でない場合や息継ぎの位置・仕方によって悪化することがあります。そのため、まずは発声法の基本を見直すことが大切です。

腹式呼吸を意識し、息のコントロールをしっかり行うことで、余計な唾液の動きを抑えられます。さらに、息継ぎの位置を文やセンテンスの間、効果的な場所に設定することで、リップ音の発生タイミングを調整でき、収録時のノイズを大幅に減らせるでしょう。

マイクとの適切な距離・角度設定

マイク設定はリップ音対策に大きく関わります。マイクに近づきすぎると口の音がダイレクトに拾われ、リップ音やブレスノイズも強調されますが、距離を適切に取ることでこれを緩和できます。

一般的には、マイクと口元の距離を15～20センチほど空け、やや斜め方向から発声音をマイクが拾うように設置します。これにより、直接的なリップ音やブレスノイズがマイクに入るのを防げるでしょう。

ポップガードの選び方と効果的な使用法

ポップガードは、リップ音やポップノイズといった口由来のノイズ対策として、録音現場では必須のアイテムです。ポップガードには、ナイロン製・メタルメッシュ製など種類があり、それぞれ風防としての特徴があります。品質の良いポップガードを選ぶことで、発声時に発生する空気の流れや唾液音を物理的に遮断し、クリアな音声収録が可能になります。

また、ポップガードはマイクから約5cm離した位置に設置し、自分の口との間にしっかり空間をつくることが重要です。これにより、リップ音やブレス音のみならず、過度な「サ行」「パ行」などの破裂音もカットでき、プロの収録現場でも広く活用されています。

収録場面や用途に応じてポップガードの種類を選択し、正しく活用することがリップ音コントロールの鍵となります。

ボイストレーニングによるリップ音改善

リップロールの練習方法と効果

リップロールとは、唇を軽く閉じて息を送り、唇を「プルプル」と振動させるボイストレーニングの一種です。このトレーニングは、唇や口の周辺の筋肉をリラックスさせる効果があり、余計な力みや唾液の溜まりを防ぐため、リップ音のコントロールに役立ちます。

実践方法は、リラックスした状態で軽く唇を閉じ、息を鼻から吸い込み、口から強くではなく自然に息を吐いて唇を震わせます。1日5分程度、複数回に分けて練習することで、徐々に口周りの柔軟性が高まり、リップ音の発生を抑えやすくなるでしょう。

舌の動きを改善する専用エクササイズ

舌の可動域や柔軟性の向上も、リップ音軽減には非常に重要です。舌が緊張していたり動きが悪いと、発話時に口腔内で唾液が絡みやすくなり、リップ音が生じやすくなります。主要なエクササイズ例を表で整理します。

ポイントは無理をしない程度の負荷で毎日続けることです。舌のコントロールが向上すると、発声や発音時のリップノイズが大幅に減るでしょう。

口腔筋を鍛える日常トレーニング

リップ音の根本的な改善には、口の筋肉全体をバランスよく鍛えることが重要です。表情筋や口唇周辺の筋力を高めることで、唾液のコントロールや発音時の余計なノイズ低減につながります。

こうした日常で手軽に行えるトレーニングは、発声時の安定感を高め、リップ音に悩まされにくい口の環境づくりに効果があります。声優をはじめナレーターや歌手にも、取り入れている人が多い方法です。

ボイストレーニングを継続することで、リップ音を最小限に抑え、よりクリアで表現豊かな声を手に入れることができるでしょう。

リップ音の「出し方」のコツ【演技技術】

意図的にリップ音を出すべきシーンとは

声優にとってリップ音は基本的に避けたいものですが、キャラクターの緊張や戸惑い、感情の高まりをリアルに表現する際には、あえてリップ音を意図的に用いることで演技に深みを与えられます。

例えば、キャラクターが台詞の直前にためらったり、息をのんだりする場面や、内心の動揺を表現したい場面でリップ音が自然な演出効果となるでしょう。また、リアルな会話シーンや密接な距離感を表現するシーンでは、繊細なリップ音が臨場感を高めてくれます。

演技表現としてのリップ音活用テクニック

リップ音はただ「発生すれば良い」というものではなく、意図やタイミング、音の強弱をコントロールすることで、感情やシーンの雰囲気を的確に伝えることが必要です。たとえば、微かなリップ音を入れることで緊張感や沈黙の間に深みが生まれます。逆に音が強すぎると不自然さにつながるため、適切な音量やタイミングを意識することが大切でしょう。

また、リップ音を使う場合はマイク位置にも注意が必要です。マイクを口元からややずらすことで、リップ音を強調しすぎず、適度な存在感に留められます。演技プランの一部として、リップ音をアドリブではなく意図的に挿入する場合は、演出意図を音響監督と共有し、収録現場で一覧化してチェックするのも効果的といえるでしょう。

自然で効果的なリップ音の出し方

リップ音を自然かつ効果的に出すためには、口唇と舌の使い方、発声直前の息づかいや口内の水分バランスなど、基礎的なボイストレーニングが不可欠です。具体的には、収録前に口唇を軽く湿らせておく、舌を動かしやすく準備運動をして緊張をほぐすといった事前準備が有効といえます。

さらに、リップロール（唇を震わせる発声練習）や口の筋トレーニングを日常的に取り入れることで、発声時に意図したタイミングで自然なリップ音を発生させやすくなるでしょう。台詞の中で「つばを飲み込む」「口を軽くすぼめる」「小さく唾液を動かす」など、ナチュラルな動作と組み合わせることで、違和感のない表現が可能です。

なお、過度なリップ音にならないよう鏡で口元の動きをチェックしながら練習し、自分のサンプル音声を録音して客観的に確認することも大切です。常に「聴かせたい音」「抑えたい音」を明確に意識し、場面やキャラクターに合わせた適切なリップ音演技を心がけましょう。

まとめ：声優が実践すべきリップ音対策の要点

リップ音は、正しい水分補給や収録前のマウスケア、マイクワークの工夫、そして日々のボイストレーニングで大幅に軽減できます。声優として現場でのリテイクや時間ロスを避けるためには、即効性のある対処法と継続的な口のケア、発声方法の改善を実践し、音響監督の指摘ポイントを理解することが大切でしょう。リップ音をコントロールすることで表現力も磨かれるはずです。

※本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としております。一部情報については更新性や正確性の保証が難しいため、最新の制度や要件については改めてご自身で各公式機関にご確認ください。